人間科学部

卒業研究:皮膚表皮細胞FRSKに関する研究【健康科学研究室】

健康科学研究室4年 FRSK皮膚班

   健康科学研究室は、生命科学を主な研究のテーマとしています。研究室には、卒業研究「演習Ⅱ」に取り組む学部生の4年、「演習Ⅰ」にて卒業研究のテーマ検討などに取り組む3年、そして修士論文の研究に取り組む大学院生が在籍しています。

ここでは、「月経に関連する肌荒れ」をテーマに卒業研究に取り組んでいる皮膚班を一例に、本研究室での研究実験の大まかな流れを紹介します。

皮膚班は、エクオールという成分に着目し、皮膚の表皮細胞FRSKに対してどのような影響があるのかについて実験を進めています。エクオールは、大豆イソフラボン由来のダイゼインが腸で代謝されることによりつくられる成分です。女性ホルモンの一つであるエストロゲンとよく似た分子構造を持つため、これに近い働きをする成分「エストロゲン様作用」を持つといわれ、近年注目されています。

FRSK細胞を培養dishよりパスツールピペットを使って上清吸引

   FRSK細胞はラット表皮由来の細胞です(表皮ケラチノサイト株, 胎仔皮膚由来)。実験の材料となるFRSK細胞を培養して増殖させます。慢性骨髄性白血病由来の細胞K562や免疫細胞マクロファージJ774.1のような浮遊細胞とは異なり、FRSK細胞は接着細胞のため、ディッシュ培養液中で張り付くようにして増殖することが特徴です。

培養にはDMEMダルベッコイーグル培地を基本培地としています。実験の内容によりフェノールレッドの含有、不含を使い分けます。これに対し、10%FBS(Fatal Bovine Serum)ウシ胎児血清、1%ペニシリン(抗生物質)を調整して使用します。細胞の種類によって、使用する基本培地が異なります。CO2インキュベーターにて培養します(Set:Temp;37℃,CO2;5%)。

ディッシュでの培養後、細胞を回収する時はPBS(-)リン酸緩衝液(Ca,Mg不含)だけでなく、さらにトリプシンを混和し、細胞を取り残すことのないように回収します。トリプシンとは膵臓から分泌される膵液に含まれる消化酵素の一つです。

ディッシュから回収した細胞を遠心し、1mL 中の細胞数をカウント(トリパンブルー溶液、血球計算盤)、ここから細胞濃度(/培養液mL)の段階希釈を設定し、増殖能アッセイに入ることができます。(細胞数のカウント法については、生命の科学実習にて学ぶことができます)

FRSK細胞 増殖能アッセイ(WST-1試薬)

   勢いよく増殖している細胞を使って、細胞増殖能を調べます。WST-1アッセイ試薬(Premix WST-1 Cell Proteliferation Assay System,タカラバイオ)を添加することにより吸光度を測定し、しっかりFRSK細胞の対数増殖期が観察できる濃度を見極めます。ここで設定された細胞濃度で、以降の添加実験等を進めます。アッセイ(Assay)とは、検体の存在、量または機能的な活性や反応を定量的に測定する方法のことです。

WST-1試薬添加後、振盪
CO2インキュベーター30分後、吸光度の測定

   ここで、吸光度を測定することにより、はじめてFRSK細胞増殖の様子を数値化し比較検討することができます。

H2O2添加による細胞死Apoptosisの測定など

   増殖能アッセイで設定された濃度において、エクオール試薬をいくつかの濃度で添加し(ジメチルスルホキシドDMSO、DMEM基本培地)、その増殖への影響を測定し比較しています。

培養にはDMEM培地を使用しますが、フェノールレッドは女性ホルモン様作用の報告もあるため、ここでは、フェノールレッド不含のDMEM培地を使用することにも工夫しています。

また、過酸化水素を設定した濃度で添加し、細胞死Apoptosisが起こる影響を蛍光度測定試薬(RealTime-Glo Annexin V Apoptosis and Necrois Assay,Promega)により経時的にその差を測定することなどに取り組んでいます。

健康科学研究室中間発表(7月)

   「演習Ⅱ」が佐藤教授との実験班ごとのミーティング時間として設定されており(ゼミ形式)、実験結果や研究計画、卒業研究のまとめに向けてじっくり話し合います。定期的に研究室全体での研究発表も開かれます。

 このように、細胞を使った研究において実験成果を得るためには、実験だけでなく、細胞の観察、メディウムチェンジなど継代に関するケアや実験期間中のデータ計測を欠かすことができません。日々、熱心に研究に向き合っています。

実験室にて(理学館)
実験室にて(理学館)
FRSK細胞 凍結より解凍、播種後
FRSK細胞 播種後、対数増殖期