発達臨床心理学研究室
石谷 真一教授
「わたし」の成り立ちには養育者との愛着を核とする関係性が深く関わっています。子どもはこの育ちの関係性を遊びによる想像性を通して心の中で推敲し、自分自身や他者の思いを理解する力(メンタライゼーション)を少しずつ培っていきます。しかしその過程には様々な隘路や逸脱があり、心理的援助が求められることもあります。子どもの心の世界を人形遊びを通して理解するストーリー・ステム・ナラティブという手法の研究や、親子の関係性への心理学的支援についても研究し、実践しています。


発達臨床心理学研究室には、乳幼児の心の発達と臨床的問題、親の養育態度の子の発達に及ぼす影響、児童期・思春期の仲間関係や想像性と精神的健康との関連、青年期の自己形成や関係性、等に関心をもつ学生が集まってくれています。それぞれの関心を卒業論文として結実させるため、文献資料の収集・読解、観察やインタビュー法を含む様々な心理学研究法の習得、研究を実践していくうえで不可欠な倫理的配慮や実践上の問題に対処できるよう、指導していいます。本研究室に在籍する学生の卒業研究の特徴は、乳幼児や養育者あるいは養育関係者へのインタビューや実験観察を行う者が多いことです。積極的に学外でデータ収集することも勧めています。また、3回生のゼミ生には、幼稚園児と個別の遊戯的関わりを経験してもらうため、人形遊び技法を援用した実習を行い、ストーリー・ステム・ナラティブに表れる幼児の心の世界を推測する練習を行っています。本研究室からは臨床心理士・公認心理師を目指し毎年数名の大学院進学者がおります。

京都大学大学院教育学研究科臨床教育学専攻博士課程終了 教育学博士 臨床心理士
佛教大学教育学部臨床心理学専任講師、
神戸女学院大学人間科学部准教授を経て、2009年4月より現職
【受験生の方へ】
心は目に見えないものなので、目に見えるヒトの様々な言動から、心の仕組みや働きを推論するのが心理学です。推論と言っても科学としての厳格なルールに基づいて進めなければなりません。それが実験や観察や調査といった心理学の研究法です。 臨床心理学は上記の心理学の一分野です。実際に心の問題で困っておられる方に役立つ援助法を開発し実践していく学問です。臨床心理学にも科学としての厳密さは不可欠です。そのために臨床心理学独自の心の理解の仕方、調べ方、援助の仕方もあるわけです。
私は困っておられる方の心を理解する際に、第一にその方が誕生以来どのような人間関係の中で心を作り上げてこられたのかを重視します。それが発達臨床心理学です。問題や事象を単純化するのではなく、複雑多様な現実を多面的・複眼的に捉えることを目指しています。
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研究主題・研究業績を見る
<研究主題>
主な研究テーマ:
① 愛着関係と表象世界から見た乳幼児及び児童の発達精神病理
② 幼児・児童の表象世界の発達と問題を査定するためのストーリー・ステム・ナラティブの臨床的適用
③ メンタライゼーションの観点を取り入れた幼児から青年への発達臨床的支援と養育者との関係性への介入技法について
④ 心理援助者の教育へのメンタライゼーションの活用
<研究業績>
- 著書
[単著]石谷真一 著 『自己と関係性の発達臨床心理学』 培風館, 07.11
[共著]伊藤良子・角野善宏・大山泰宏 編 『発達障害と心理臨床』 創元社, 09.3
[共著]山祐嗣 山口素子 小林知博編 『基礎から学ぶ心理学・臨床心理学』 北大路書房, 09.4
[共著]高石浩一・谷口高士共編 『心理学実習』 培風館,06.12
[共著]氏原寛・杉原保史編『臨床心理学入門』培風館, 04.9
- 学術論文
[単著] 青年期モラトリアムの発達・臨床的意義の再評価, 博士論文(京都大学), 220pp., 03.7
[単著] 大学院生による模擬面接体験の分析 神戸女学院大学心理相談研究, 3-18,08.3
[単著]心理学研究法としての心理療法-面接空間で生じる情緒プロセスへのアプローチ-
神戸女学院大学論集 第57巻1号 15-26, 10.6
[単著] 人形遊び技法を用いた子どものメンタライゼーションの評価の試み, 神戸女学院大学論集 第59巻1号, 12.6
[単著]人形遊び技法におけるナラティブの共同構築過程 神戸女学院大学論集 第60巻1号 52-74, 13.6
[単著]人形遊び技法における作話の共同構築過程のコード化と幼児の対人適応との関連 神戸女学院大学論集 第61巻2号 32-50. 14.12
[単著]トロニックの二者意識拡張モデルとその臨床的含意 ヒューマンサイエンス 18号 15.3
[共著] 大学における不登校・ひきこもりに対する支援の実態と今後の課題
学生相談研究 第32巻1号 23-35 11.9
- 学会発表
[単著] 模擬面接を介した大学院生の臨床コミュニケーション力育成の試み
日本心理臨床学会第27回大会 08.9.4~7
[単著] 人形遊び技法場面における相互交流の評定法開発の試み 日本心理臨床学会第33回大会 14.8.25
[単著] 人形遊び技法を素材にした疑似セラピープロセスの微視的分析 日本心理臨床学会第34回大会 15.9.18
[単著] 幼児のstory stem narrative -1年後の変化が意味するもの- 日本心理臨床学会第35回大会 16.9.5
[単著] story stem narrativeにおける作話過程の相互交流の分析 日本精神分析的心理療法フォーラム第6回大会 17.7.1
[単著] 子どもの遊戯的自己表現を促進するセラピストの関わり -story stem narrativeのプロセス分析から- 日本遊戯療法学会第23回大会 17.8.27
[単著] 人形遊び技法-その紹介と活用- 日本遊戯療法学会第21回大会ワークショップ 15.9.5
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卒業論文題目
<卒業論文項目>
一卵性双生児の乳幼児観察
幼児の自己調整機能の発達~場面想定法を用いて~
子どもの持つ親イメージが自身の自己調整機能へ与える影響について
5歳児の絵本への理解と共感
幼年期の仲間関係における自己主張
幼児期の自由遊び場面での想像力の年齢差
プレ幼稚園での母子分離から仲間形成まで~観察法を用いて~
乳児の「泣き」に対する母親の認知と関わり
絵本の読み聞かせを通した母子関係の構築
育児不安について~母親になること~
幼児期の遊びにおける仲間関係の形成について~保育士へのインタビューを用いて
20年間の養育環境の変化が及ぼす母子への影響~幼稚園教諭へのインタビュー調査
養育態度の世代間伝達
アスペルガー障害の青年の就労に関する事例研究
日記活動が小学生の自己受容感に与える影響について
親の養育態度とそれに対する子の認知が女子中学生の自己肯定感と親子関係に及ぼす影響について
女子大生における両親の関わりとレジリエンスとの関連
女子大学生の就労意識に母親との同一視が与える影響
女子大学生の自己実現志向性に関する研究
女子大学生における自己受容と時間的展望が自己形成に及ぼす影響
女子大学生における母娘の愛着関係が友人関係に及ぼす影響
大学生における失恋体験の過程と心理的変化~インタビューを用いて~
女子大学生におけるユーモアと友人関係
物語への移入と共感性の関係
愛する人への別離(未練について)
他 多数
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大学院教育
私の専門分野は、臨床心理学の中でも発達臨床心理学です。私は発達臨床心理学という言葉を、乳幼児発達研究の成果を、幼児のみならず、人生の様々な時期にいるクライエントさんの臨床問題の理解、ならびに心理臨床場面で二人の間に生じる情緒的な交流の理解に生かしていく臨床心理学の一領域として用いています。大学院での心理臨床の指導は、教員全員で行いますから、私は上記の立場から指導にコミットしています。
またゼミ生は、関係性の中で心が発達していくという観点を軸に自らテーマを決めて多様な研究を進めています。青年期のアイデンティティの研究や孤独感の研究、発達障害児の親への心理的サポートの研究、児童養護施設での心理臨床家の活動についての聞き取り調査、乳幼児の愛着の研究などです。私の研究領域について、もっとお知りになりたい方は、拙書「自己と関係性の発達臨床心理学」培風館(2007)をお読みください。人間科学研究科という理系の先生や院生もいる中で心理臨床の真髄を学び、また伝える貴重な経験を共にしていきましょう。
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TOPICS
ストーリー・ステム・ナラティブを用いてのメンタライゼーションの評価
メンタライゼーションとは自分や他者の言動をその背後にある心の動きから理解しコントロールしようとすることを言います。メンタライゼーションは生得的な能力と養育者の心に配慮した関わりとの交互作用発達を通して獲得されるもので、健康な愛着形成を土台に少しずつ発達していくものです。メンタライゼーションの発達に問題があると、対人関係や社会適応に問題が生じがちです。子どものメンタライゼーションの発達を測定する方法は幾つかありますが、私は幼少期の子どもの心の世界を人形遊びを用いて捉えるストーリー・ステム・ナラティブを、メンタライゼーションの評価に活用できないかと考え、ゼミ生が取り組む実習で得られたデータを分析しています。ストーリー・ステム・ナラティブ自体が愛着の測定と深く関連して発展してきているものですが、これにも幾つかの手法があり、日本での臨床的適応にふさわしい方法を模索中です。