人間科学部

【解説】管住性ハチ類のきょうだい同士の共食いに関する研究論文が国際学術誌PLOS ONEに掲載されました

鳥類の巣でよくみられるきょうだい(*)間の競争やブルードリダクションは、一般的なハチの巣では、幼虫が各育室に隔離され発育するため回避されています。しかし、アルマンアナバチ(旧和名:アルマンモモアカアナバチ)は例外的に「共同育室」という大部屋をつくり、その巣(共同育室)の中では最大で10を超える幼虫が、限られた餌を共有して育ちます。本種の幼虫は、共同育室を成立させる寛容な性質をもつとされてきた反面、ともぐいという攻撃的な一面も知られていましたが、その実態はほとんど謎に包まれていました。

竹筒トラップにつくられた本種の巣を大量に集め、天敵などを含まない巣だけを幼虫の発育段階ごとに分析すると、41–54%のブルードの減少が認められました。また、ブルードの飼育実験の録画映像からは、その減少に相当するきょうだい間ともぐいが起きていることが観察されました。巣の餌量は幼虫期の生存率に正の影響を及ぼしているものの、ブルードの幼虫数が多くなるにつれて生存率は下がりました。このことは、母バチが産んだ卵の数に対して供給できた餌量が少なすぎるというミスマッチが頻繁に起きていることを示しています。この理由として、母バチは環境中の利用可能な餌資源を正確には予測できていない可能性が考えられます。

本研究は、アルマンアナバチという単独性カリバチの巣内できょうだい間ともぐいを通じてブルードリダクションが頻繁に起きていることをはじめて実証したものです。ブルード減少やきょうだい間ともぐいは、さまざまな生物で知られていますが、両者が結びついている事例はサメなどのごく一部の生物でしか知られていません。アルマンアナバチはこれらの問題を研究するのに最適な生物といえます。

DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0267958

Imasaki Y, Endo T (2022) Brood reduction caused by sibling cannibalism in Isodontia harmandi (Hymenoptera: Sphecidae), a solitary wasp species building communal brood cells. PLoS ONE 17 (5): e0267958

*: “きょうだい”がひらがな表記である理由は、兄弟姉妹すなわち雌雄両方の意味を含むからです